佳奈多さんの霍乱〜クドリャフカ奮戦記〜

  

  


「38度8分、か。 私とした事がなんて事」

 ベッドに横たわり氷枕を頭に敷き濡れタオルを頭に乗せ、熱で赤くなった顔で体温計を見てぼやいているのは二木佳奈多。
 普段から規則正しく生活し、健康には人一倍気を使っている彼女が何故こんな事になったかと言うと。


 昨日妹の三枝葉留佳にいきなり水鉄砲を浴びせかけられ、怒った佳奈多は丁度一緒に巡回してたストレルカと共に葉留佳を追いかけた。
 そして、ストレルカのタックルに吹っ飛ばされた葉留佳は不運にも校内に有る池に叩き落とされてあえなく御用。
 怒りに我を忘れていた佳奈多はお互い水浸しのまま、体も拭かずに一時間ほどお説教、それで姉妹仲良く風邪をひいたと言う訳である。
 夏が過ぎ、秋も半ばになった時期にそんな事をやれば当然だろう。不幸中の幸いは今日は休日であった事か。

「葉留佳、風邪が治ったら徹底的にとっちめてやるんだから…… ううっ怒ったらまた頭痛が」

 恨み言を言うのにも難儀な様子で、実に気の毒である。

「佳奈多さん、大丈夫ですか?」

 そこにルームメイトの能美クドリャフカが洗面器に交換用の濡れタオルを入れて部屋に入って来た。

「今日は休日ですので私が看病してさしあげるのです!」

 と、やる気まんまんのクドリャフカに最初は追い出そうとした佳奈多だったが。

「いえ、いつもお世話になっている佳奈多さんに今恩を返さねば筋が通せねぇのです! 大丈夫です、しっかり看病するのでお任せ下さいなのです!」

 と瞳に炎を宿したクドリャフカの気迫に押し切られ現在に至っている。

(誰よクドリャフカに任侠映画なんて見せたの?また余計な日本知識を仕入れちゃってるじゃない)

 クドリャフカにとっては、何かとフォローしてもらっている佳奈多へ恩返しをする千載一遇のチャンスであったので燃えに燃えていた。
 佳奈多の風邪を引いたと知ってからのクドリャフカの行動は非常に素早く、急いで氷枕を作り、洗面器に水を入れて濡れタオルを準備。
 また、朝食を採る元気が無いと分かれば林檎を摩り下ろしたジュースを作って飲ませ、栄養補給。
 汗が出たらすかさず拭き取りと甲斐甲斐しく世話をした。こんなお嫁さんが居たらそいつは一生勝ち組だろう。


「それにしても葉留佳ったら、今度という今度は許さないんだから」
「まぁまぁ、佳奈多さん。 葉留佳さんも高熱を出して寝込んでますのでほどほどにしてあげてください」
「……葉留佳は大丈夫なのかしら?」

 酷い目に遭わされたとは言え、たった一人の大切な妹(口に出しては決して言わないが)だからか、風邪を引いたと聞けば心配になる佳奈多。
 仲直りしてからはやや妹に甘いご様子。

「あ、そちらの方は大丈夫なのです。来ヶ谷さんが『私が看病してやろう』と葉留佳さんのお見舞いに行かれましたので」
「……どうも嫌な予感がしてしょうがないわね」
「そうですか? 来ヶ谷さんなら頼りになるので大丈夫だと思うのですが?」
「ただ看病するだけで済めば御の字ね。まぁ葉留佳には良い薬かしらね?」
「???」

 なんとなく先の展開が読めて苦笑する佳奈多の懸念は見事に的中するのだが、それはまた別のお話で。


 そして、佳奈多の前には今試練が訪れていた。 病気の際のお約束のアレである。

「はい、佳奈多さん。あ〜んしてください♪」

 要するに、クドリャフカがお粥の鍋から匙ですくい、佳奈多の前に差し出して食べさせようとしている訳である。 
 クドリャフカの献身的看護のおかげか、昼には空腹覚えるまでに回復した佳奈多。
 それでクドリャフカが「ちょっと待ってて下さい」と外に出て行ってから暫くすると、お粥の入った鍋を持って戻って来た。
 クド曰く「今回のはマルテン堂の昆布をふんだんに使った特製お粥なのです!とっても美味しいですよ〜」との事。
 しかし、佳奈多に「あ〜ん♪」なんてやったらどういう反応を示すかは火を見るより明らかで……

「ひ、一人で食べられるから良いわよ。 そんな恥かしい事出来るわけ無いじゃない!」
「でもでも、佳奈多さんはご病気なのですから無理をしては駄目なのです」
「それ位なら大丈夫よ。クドリャフカのおかげで大分良くなったし」
「いいえ、そういう油断が悪化の元なのです!」

 当然渋る佳奈多であったが、今日はクドリャフカも珍しく強情で一歩も引かない。

「どうしても駄目なのですか?」
「えっ?」

 上目遣いで目を潤ませだしたクドリャフカに、悪い事をした訳でも無いのに何故か罪悪感を感じてしまう佳奈多。

「いつもいつもご迷惑を掛けていますので、こんな時位はと思ったのですが・・・」
「ちょっとクドリャフカ?」
「わたしはご病気の方にご飯を食べさせる事も出来ないだめだめわんこなのですね〜ね〜ね〜」

 しまいには両手をついて凹み、更にはどんよりとしたオーラまで纏いだした。

「〜〜〜〜〜〜っ。あぁもう、鬱陶しいわね。分かった、分かったわよ。クドリャフカ食べさせて頂戴」
「宜しいのですか?」
「折角のお粥が冷めちゃったら美味しく無くなるでしょう? そんなの勿体無いじゃない」
「分かりました。ではあ〜んです♪」
「……全くもう」

 根負けした佳奈多は憮然とした顔をしながらもクドリャフカから手ずから食べさせて貰う。

「でも良かったです」
「何がよ?」
「いえ、もしこれでも断られるのであれば口移しで食べさせるしかないと思っていましたので」
「ぶっ!? げほっごほっ」

 思わずお粥を噴出しそうになるのをこらえたせいでむせる佳奈多。

「わぁ?大丈夫ですか佳奈多さん?」
「だ、誰のせいだと思ってるのよ」
「じょ、冗談ですよ? 佳奈多さんだったら、その、嫌では無いですけど」

 そう言うと顔を赤らめて人差し指をつんつんしながらもじもじするクドリャフカ。

「冗談でも止めて頂戴」
「ごめんなさいなのです」
(もう、タチの悪い冗談覚えちゃって。どうせ来ヶ谷さんあたりの入れ知恵でしょうけど、困ったものね全く)

 舌をぺろりと出して謝り、あまり反省してるようには見えないクドリャフカに頭痛がひどくなった気がする佳奈多であった。
 

「佳奈多さん汗をかかれてますから、今度は体をお拭きするのです」

 食後の薬、体温計測、氷枕の交換等の一通りの看病をした後、こう言い出したクドリャフカ。

「じゃあ、お願いするわね」
「あれ? 宜しいのですか?」

 あまりにあっさり承諾したので逆に驚くクドリャフカ。

「何よ?」
「いえ、さっきまでの佳奈多さんなら絶対に抵抗なさるかと思ったので」
「どうせ嫌だと言ってもやるんでしょ?無駄な体力使うだけ損じゃない。だったらさっさとやってもらって寝た方がマシよ」
「分かりましたっ!では、いざ参るのですっ」

 クドリャフカは優しく、丁寧に佳奈多の体を拭いて行く。

「佳奈多さん痛く無いですか〜?」
「大丈夫よ、もうちょっと強くして良い位ね」
「では、もうちょっと強くして」
「こらっ、くすぐったいわよ」
「あ、ごめんなさいです」
「謝らなくても良いから、続けて頂戴」
「はいっ」

 そして、体を拭き終わり着替えも完了したのだが・・・

「どうしたのよクドリャフカ、顔真っ赤にして?」
「いえ、その、佳奈多さんやっぱりおっぱい大きくて羨ましいです」

 顔を赤く染めながら、そんな事を言い出すクドリャフカ。

「ど、どこを見てたのよ貴方っ!」

 佳奈多は思わず胸を隠す。

「わふ〜っごめんなさいです! でも形も綺麗だったのでついつい目が行ってしまいまして」
「私の胸を見たところで貴方の胸が大きくなるわけじゃないでしょう?」
「ですが、手に入らない物は眺めてるだけでも楽しいものですし」
「だとしてもあまりじろじろ見ないで頂戴。来ヶ谷さんや神北さんほど誇れる体でも無いし葉留佳にだって負けてるし、それに私の腕と背中には傷が・・・」

自分がかつて唯湖に言った台詞を引き合いに出されて、強く出れなくなる上に自虐まで入ってくる佳奈多。

「その傷は佳奈多さんに責任は無いじゃないですか。例えどこに傷が有ってもわたしは佳奈多さんの体は綺麗だと断言します」
「・・・クドリャフカ」
「だから自信を持ってください。佳奈多さんはわたしにとって憧れの人で、目標なのですから」
「だけど相手が嫌がればセクシャルハラスメントは成立するのよ? 良く覚えておきなさい」
「はいなのです〜」

(有難うクドリャフカ、貴方は本当に強くなった。貴方がルームメイトになってくれて救われているのはむしろ私の方なのよ?貴方は気付いてないのでしょうけどね)

心では感謝はしつつも結局はお説教する佳奈多に、伏せの体勢で謝罪するクドリャフカであった。



 そして、夜。

「今日はだるいからもう寝るわ、貴方も早く休みなさいよ?」
「はい、それでは失礼します」

 と言いながらクドリャフカは佳奈多のベッドに潜り込んできた。

「クドリャフカ、どういうつもり?」
「えっと、もう秋ですし夜は冷え込みますから、私の事は湯たんぽだとでも思ってくださいっ」
「風邪がうつっても知らないわよ?」
「佳奈多さんの風邪が治るならそれも本望なのです」
「馬鹿ね貴方は」
「えへへ」

 佳奈多はそう憎まれ口を叩きつつもクドリャフカを抱き締め、クドリャフカも抱き返して仲良く眠りについた。


 そして二日ほど後

「やっぱりこうなったわね」
「めんぼぐじだいもござびまぜん(訳:面目次第もございません)」

 佳奈多の風邪がばっちりうつり、寝込んでしまったクドリャフカ。

「まぁ良いわ、借りを作りっぱなしと言うのは好きじゃないの」

 とクドリャフカの看病をする佳奈多であった。

「はい、クドリャフカお粥。そうだ、口移しで食べさせてあげましょうか?」
「わふっ!?」

 ちょっぴり仕返しも交えつつ。

  

<了>

  


面白かったらぜひっ

あとがき
ねるおさんサイト開設一周年おめでとうございます。 この作品が枯れ木も山の賑わい程度にでもなればと思い贈らせていただきます。
ねるおさんのクドと佳奈多のやりとりは毎度毎度圧倒されます。それに触発されて今回書くに至りました。
今回は俺が現時点で思い付く限りの二人のやりとりを書いたつもりです。いずれもっとはっちゃけたネタもやりたいなぁと思ってたりしますが。
まぁ現在これの裏側に当たるはるちんサイドのネタも製作中なので気長にお待ちくださいませ。
今後もねるおさんの楽しい作品を期待し、そして俺もまた遅筆ながらもネタが浮かんだら贈らせていただきたいと思います。

追伸:佳奈多さんの傷の事でご指摘を受けたので、一部改訂いたしました。

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