「疲れた……」

 脱衣所の籠に無造作に脱いだ服を投げ入れると、私は浴室へと転がるように飛び込んでいった。
 シャワーの温度設定を少し熱めの41℃に設定し、蛇口をひねる。初めの数秒ほどの冷水をバスタブに放出することでやり過ごすと、すぐにシャワーヘッドの噴水口から湯気を伴った熱いお湯が流れ出した。湯加減を手で確かめてから、一気に頭から浴びる。瞬間、全身を激痛が駆け抜けていったが、すぐに体が熱に慣れていき、やがて心地よさすら感じるようになる。限界に達していた、体中に凝り固まっていた疲労が一気に溶けていく。目を閉じ、顔を噴水口に向けたまま、私はしばらくの間じっと佇んでいた。

 ぽたり、ぽたり、と頬を雫が伝い落ちる。涙のように落ちていくそれを、目は開けずに体で感じている。それは頬から顎へ、首筋を通って鎖骨のラインを右肩に向かって順調に流れていく。忌まわしき傷跡を嘗めるように、腕を伝って手の先へと。やがて指の先端までたどり着くと、それは静かに足元へと落ちていった。

 今日はいろいろあって疲れていた。風紀委員の仕事に寮会の手伝い、部会の取りまとめに剣道部の事務処理。身一つでやるにはオーバーワークであることは誰の目にも明らかだったが、それでも私は誰にも文句を言うこともなく、また誰に文句を言わせるでもなく、表面上は淡々とこなしていた、はずだ。無表情に徹し、機械のように心動かすことなく。しかしこうして一度素の自分に戻って、熱い湯で鉄の化粧を解いてみれば、そこにはぼろぼろに傷ついた、弱いだけのちっぽけな私がいるだけだった。誰にもみせることのできないこの醜い裸体も、鏡のない浴室にならさらけ出すことが出来る。クドリャフカは全身鏡を取り付けたいとかいっていたが、そんなものは却下だ。

 お湯を一旦止め、手のひらにボディソープを数滴垂らし、静かに泡立て始める。液体だったそれは、すぐに手にまとわりつく泡となって、ほのかに何かの花の香りをバスルーム全体に広げていく。私はゆっくりと左手を右腕に添えると、傷口をなぞるように洗い始めた。

 赤黒く変色し、幾多もの種類の傷により凹凸の激しくなった表面を軽く撫で付ける。ざらざらとした、不快な肌触り。痛みなどとっくの昔に消え去っていたが、錯覚なのか、泡がしみるかのようにかすかな痛痒を感じた。血管とは明らかに異なる太い歪な線を、嫌な思い出のこびりついた忌まわしき過去の象徴を、大切なものを守りきれなかったちっぽけな右腕を、丹念に揉み解すように、泡をこすりつけていく。

「”ミミズ腫れ”とはよく言ったものね」

 ふとおかしくなって自嘲する。まさしく、私の腕には無数の蚯蚓が棲んでいるのだ。目を閉じ耳を澄ませば、腕を這いずり回るやつらの物音が聞こえてくる気さえしてくる。ずりずり。ずりずり。不快な液体を撒き散らし、うねうねと気色の悪い動きで這いずり回る、最低最悪の生き物。土の中にいれば浄化作用もあろうその生物も、腕の上をのたうち廻っているだけではただの不愉快な存在だ。反吐が出る。

 もちろんそれは幻覚で、目を開けば単に薄汚い右腕がそこにはあるだけだった。目には見えない汚物を引っかき落とすように強くこすると、ズキンと腕が痛んだ。



 ふと、背後の扉辺りに人の気配がした。不注意だった、といえばそれまでだが、それにしてはあまりにもお粗末な、痛恨のミス。普段の私ならば絶対にあり得ないその失態の何の言い訳にもならない。

「佳奈多さぁ〜ん。お風呂ご一緒しましょうー♪」
 
 はっと気がついたときにはもう遅かった。クドリャフカはすでに脱衣所で服を脱ぎ去り、浴室の扉にまさに手をかけているところだったのだ。

「待って! 来ちゃだめ、クドリャフカ!」
 
 鋭い声が、狭い浴室に反響する。自分で出したとは思えないほどの声量が、そのまま私の耳に直撃した。

『来ちゃだめ、だめ、だめ、め、め、め、クドリャフカ、フカ、フカ、フカ、カ、カ、カ』

 その耳への破壊的な攻撃に思わず一瞬目をしかめ、しかる後に開くと、

「そんな、私と佳奈多さんの仲じゃないですか、このこの〜なのですー……え? ……あ、あ、あ……」

 そこには呆然と立っているクドリャフカの姿があった。怯えるように声を絞り出す彼女のその視線の先は、確認しなくてもわかる。タオルで隠す暇さえもなかった。

「わ、わ、私、こんなつもりじゃ……」




 見られた。
 見られてしまった。
 馬鹿だ。
 私は、大馬鹿だ。
 少し疲れていたとはいえ、脱衣所はおろか浴室の鍵さえかけなかったなんて!
 最悪だ。
 一番見て欲しくない人に見られてしまうなんて。
 ほんと……最悪だ。




「出てって……」

 私は自分でも驚くほど静かな声で、いまだに呆然とたたずむ少女へと声をかけた。私の声にびくっと反応すると、そのままふらふらっと浴室へ入り込もうとしてくる。

「ごめんなさい、ごめんなさい、佳奈多さん、ごめんなさい、ごめんなさい」
「出てって!!!!!!!」

 涙を隠そうともせず近寄ってくる彼女の小さな体を思い切り突き飛ばす。ガツンと、少女の体が勢い余って壁に頭をぶつける音がしたが、今の私にそれを気にする余裕はなかった。体はがくがくと震え、視界も覚束ない。熱いシャワーのお湯を浴びながら、私はただ背を向け、クドリャフカを視界から消すことしか出来なかった。

 やがて、静かに扉の閉じる音がする。クドリャフカが部屋に戻っていったのだろう。ぶつけた頭は大丈夫なのだろうか?

 馬鹿馬鹿しい。何を今更、私はそんなことを気にしているのだろう。そんなことは、彼女を誤って突き飛ばしてしまったときに心配しておくべきことだったのに。私はそれが出来ず、彼女に醜い背を向け、縮こまっていることしか出来なかったのだ。今更私にクドリャフカを心配する資格などない。私にできるのは、精々彼女の綺麗な体に傷が残らないことを祈るだけ。

 シャワーのお湯はいまだに止まらない。当然だ。私が止めないのだから、止まるはずはない。それでいい。止まらなくていいのだ。

 蛇口にしがみ付き、温度の設定を50℃にまで上げる。標準体温のおよそ1.4倍にあたる、もはや人体にとっては熱湯といっても差し支えのない温度。常人ならば即座に飛び上がるほど熱い液体を、私は顔を背けることなく一心不乱に浴びていた。願わくば、この両目を、鼻を、口を、頭のてっぺんから四肢の先に至るまでの、私の全てを焼き尽くしてしまえ。

 頭の上から降り注ぐ雫は、願いを叶えることなく、私の頬を涙が伝うように流れ落ち、顎へ、首筋を通って鎖骨のラインを右肩に向かって順調に流れていく。忌まわしき傷跡を嘗めるように、腕を伝って手の先へと。やがて指の先端までたどり着くと、それは静かに視界から消えていった。






***






 やがて自分を罰することにも飽き、ゆっくりと蛇口を締めていく。きゅっきゅっという小気味のよい音と連動して、噴水口から噴出す熱湯が息を潜めていく。まるで、とうの昔に涸れ果ててしまった私の涙のように。

 泣いてなどいない。泣く必要もない。泣く理由もない。
 見られた。そう、見られた。ただ、それだけだ。それが一体、何だというのだろう?

 かつて一度、似たようなことがあった。相手は同じクラスの男の子。同じクラス委員だったこともあってか、私にとって顔を合わせる機会がもっとも多かった男の子。私を好きだと言ってくれた男の子。
 こんな無愛想な女の、どこを好きになったのかはわからなかったが、告白してきたときの彼の目に宿った光から、それが冗談ではないことがわかった。わかると同時に、私は困惑する反面、少しだけ、ほんの少しだけ嬉しくもあった。
 もちろんそのときの私に恋愛などする余裕も暇もなかったし、断る気でいたけれども、どこか心は晴れ晴れとしていたのだ。たしかに私はあの時、幸せの片鱗とやらを感じていたのかもしれない。

 でも壊れるのは一瞬だった。
 私に陽光の片鱗をくれたその男の子は、私の腕に隠された傷跡を見ると、こう言った。



「キモチワルイ」



 その日の晩、夢を見た。雨上がりの大地を二人元気に駆け回る、私と葉留佳の姿。私たちはお互い手を取り合って水溜りの上を、泥を被るのも気にすることなく跳ね回っていた。幸せな光景。けれども私はこれが夢であることを知っていたし、夢の中の葉留佳もそれに気づいているようだった。

――いつの日か、こんな風に救済された私たちに会えるといいわね
――あはは、佳奈多ったら
 
 葉留佳はおかしそうにくすくすと笑い出す。私も釣られて笑い出そうとして、ぴたりと動きを止めた。葉留佳がおなかを抱えてげらげらと笑い始めたのだ。おなかを捩りだすほどの、馬鹿笑い。おかしい。私はそんな嘲笑されるようなことをいった覚えはない。何かの悪い冗談かと思い、葉留佳の肩に手をかけたところで、

――何寝言いってるの

 その顔が、二木の叔父に変わっていることに気づいた。

――お前に救いなんてあるわけないよ、この世にはあってもね






 そう、この世に救いはあるかもしれない。けれども私がそれを手にすることは叶わないし、そもそも望んでもいない。私はただそれを漫然を受け入れ、機械人形のように淡々と義務をこなすだけ。時期が来たら見知らぬ男と結婚させられ、そいつと適当にセックスして、子供を作って、終わり。さすがに殺されるということはないだろうが、それだけ。

 そして今はそんなことよりも引越しのことを考えなくてはいけない。さすがにこれ以上ルームメイトとして生活するわけにはいかないだろう。こんなケースは今までなかったため、少し先行きの不透明さに不安を覚えたが、たいしたことじゃない。どうせすぐに『なかった』ことになる。何も気に病むことはない。
 少し気がかりがあるとすれば、私が部屋を出るとなったらまたクドリャフカは、少しの間とはいえ、ルームメイトを探すはめになるだろういうことだった。あの子の性格からすれば、いずれリセットされてやり直すまがい物の世界とはいえ、出来る限り一人ではいたくないと考えるはずだ。まあ西園さんあたりが買って出てくれるだろうから、私が気にすることでもないし、またその筋合いもないだろう。何しろ私は、クドリャフカを一人ぼっちにさせる張本人なのだから。

 考えるのをやめて、浴室からあがる。脱衣所で丹念に体を拭うと、用意しておいた着替えを手早く身につけ、ドライヤーで髪を乾かすことにする。洗面所を兼ねたその脱衣所に元々備えてあった鏡を覗き込むと、いつもどおりの私の顔がそこにあった。顔が少し赤いのは、熱いお湯を浴びすぎたためだろうか。もしかしたら軽くやけどでも起こしているのかもしれないが、それも今更の話だ。私は冷水で軽く顔を浸すと、それ以上は気にかけず脱衣所を後にした。

「佳奈多さんっ!!」
「きゃっ!?」

 風通しのよい部屋の、涼しい空気が頬を撫でるのと同時に、暖かな白い塊が私の胸へと飛び込んできた。ふわぁっと、フローラルな香りが鼻腔をくすぐる。そのどこか人を安心させる匂いに戸惑いつつ、私は恐る恐る眼下の少女を見下ろした。

「クドリャフカ……?」
「あまりにも遅かったので、心配してたんですっ! もしかしたらあの後気絶して、浴槽の中でごぼごぼ溺れてるんじゃないかって思って、私、私、」
「あなたじゃあるまいし、そんなことあるはずないでしょ」

 ついいつものように軽口を叩いてしまったが、今はそんな状況ではない。私は緩みかけた表情を引き締めると、クドリャフカに向かってできるだけ冷たく聞こえるように告げた。

「私、今日から別の部屋移るから。あとよろしく」
「ええっ!?」
 
 驚きに身を固める少女の脇をさっさと通り過ぎようとする。が、予想通りというべきか、後ろからしがみつかれてしまった。

「何よ」
「どうしていきなりそんなこと言うんですかっ!? ……もしかして、さっきのこと、怒ってますか? だとしたら、ごめんなさいなのです……」
「別にそういうわけじゃないけど……あなただって嫌なんじゃない? 見たでしょ? あんな気持ち悪い腕をした女と一緒にいたくなんてないでしょ?」
「気持ち悪くなんか、なかったのです」
「気休めはよして」
「気休めでもありません」

 ふっと背中の重みが薄れる。と同時に、今度は右腕の辺りを、柔らかくてとても暖かな何かが包み込むのを感じた。放っておこうと無視していると、すりすりと衣擦れの音が聞こえてきた。感触からするに、腕を撫でられているらしい。
 ……馬鹿馬鹿しい。
 振りほどこうと視線を向けたところで、私は過ちに気づいた。
 クドリャフカは腕を撫でていたわけではない。
 ……頬ずりをしていたのだ。

「何を、してるのよ……」

 驚きのあまり、最後のほうは声にならなかった。
 動揺を悟られまいと、気を張って言い直す。

「何をしてるのっ!?」
「もし、」

 クドリャフカは頬ずりをやめると、どこか哀しげな、はかない笑みを私に向かって浮かべた。

「もし、私の体にやけどの痕があったりしたら、佳奈多さんはそれを蔑みますか? 醜いと思いますか? ……近寄りたくないと、思いますか?」
「それは……」
「つまりは、そういうことなのです」

 はかない微笑からにこっと笑顔に変えると、少女は続ける。

「私にとって、佳奈多さんは、大切な友人なのです。ですから、それぐらいのことで避けたりなんてしないのですよ?」
「でも、あなたには他に、もっと――」
「もちろんリトルバスターズの皆さんも、私にとっては大事なお友達です。でも、私はわがままで、欲張りですから」

 にぱぁと、太陽のような笑みを浮かべて、白の少女は、静かに、ゆっくりと、

「佳奈多さんのことも、とっても、とっても大事なのです」

 そう、告げた。

 熱い何かがこみ上げてくる。
 この感情は、一体なんだろう?

「だから佳奈多さん、そんなところで独りで泣かないでください」

 涙?
 私は、泣いているのだろうか?

「私はちっぽけで、無力な、ひ弱の女の子ですが、胸を貸すことぐらいはできるのですよ……ちっちゃいですけど……」

 そうか、私は泣いていたんだ。
 ずっと、ずっと、長い間。
 気づかない振りして、強がって。
 でも私はずっと弱いままで。
 弱い私は泣きつく場所すらも持っていなくて。
 今、私はそれを、見つけた。

 涸れ果てたはずの熱い雫が、静かに頬を伝って流れ落ちる。それは頬から顎へと伝い、そして少女の輝かしい銀髪の下へ、ゆっくりと吸い込まれていった。

「うう……うあああ……ひっく、うう、うあああぁぁぁあああああぁぁぁあああああああぁぁぁ!!」






***






「事情は、お聞かせ願えないのですよね……?」
「ええ……ごめんなさい……」
「いえいえ……私こそ、こんなことぐらいしかして差し上げられなくて、ごめんなさいなのです」
「いいのよこれで……あなたはここにいてくれるだけで……この醜い傷跡を気味悪がらないでいてくれるだけで、いいの……」

 久しぶりに大泣きしたせいか、私は学園に入学して以来の、晴れ晴れとした思いでいた。随分と長いこと泣いていたと思ったが、実際には時計を見ると15分程度だったらしい。ようやく落ち着いてきたものの、正気に返ると途端に泣き顔を見られるのが恥ずかしくなり、私はいまだにクドリャフカから離れられないでいた。

「そうですか……でも」
「でも?」
「こんな私にでも、まだできることはあるのです」

 そういうとクドリャフカは私の体をそっと押し返し、じっと顔を合わせてくる。私は即座に顔を背けたくなった。涙と鼻水でぐしゃぐしゃになった自分の顔を見られることほど恥ずかしいものはない。しかし、クドリャフカの手が私の頬に添えられているせいで、それも叶わない。じっと羞恥に耐えているしかなかった。

「慰めになるかはわかりませんが……」

 え?
 え? え? え?
 何だこれ?
 何かちょっと雲行きが怪しい。

「佳奈多さん、目を閉じてください」

 すっとクドリャフカの顔が近づいてくる。
 手を頬に添えたまま、唇を突き出すような形で。

 あれ?
 あれ? あれ? あれ? 
 おかしいな、私もクドリャフカも女の子なはずなんだけど。
 こういうのって、アブノーマルって言うんじゃないの?
 それとも何、こういう場合は男とか女とか関係なくキスとかするものなの?
 え? いいのかな?
 え? するの? 本当に?

「くどりゃ……ふ……か……」

 だめだ、もう抗えない。
 もはや吐息がかかるほどにクドリャフカの顔は近づいていた。
 全身がかぁーっと熱くなる。
 人形みたいな、綺麗な顔。
 宝石みたいなスカイブルーの瞳は今は閉じられ、白い陶磁器のような頬も、これから始まる儀式のせいかほんのり桃色に染まっている。
 ぷっくりと膨れた瑞々しい唇に目は吸い寄せられ、私はとうとう観念して目を瞑った。

『クドリャフカ、あなたになら……』

 口には出さず、ただ心の中でそう呟く。
 最後に確認した距離とスピードから鑑みて、接触はおそらくあと三秒。
 私は口づけしやすいように軽く顎をあげ、その時を待った。



















































 ふにっっと、鼻の頭を押された感触を感じ取り、目を開く。
 眼前には、とても先ほどまでのクドリャフカと同一人物とは思えないほど、意地悪げな笑顔を浮かべた少女がいた。

「や〜い、や〜い、引っかかったのですー♪」
「え? あ? え?」

 状況がまるで把握できない。
 あれ? キスはどうなったのだろう?

「佳奈多さんが、佳奈多さんが引っかかったのですー♪」
「お顔が、お顔が、真っ赤なのですー♪」

 脳の情報処理機能を一時的に凍結。しかる後に、再起動。リスタートの位置はリセットの直前を起点とする。凍結開始……コンプリート。再起動開始まで、ゼロコンマ1秒。……完了。全プロセスに滞りなし。機能を再開する。
 情報処理開始まで、残り約3秒。カウント、スタート。



















































「く・ど・りゃ・ふ・かああああああああああああああああ!!!!!」
「わふー!?」
「待ちなさいっ! こらっ! 逃がすかぁ!」
「ほんの冗談でしたのにー!?」

 五分ほど追い掛け回した結果、あっさりとクドリャフカを捕まえることが出来た。当然だ。こんな狭い室内でいつまでも逃げ切れるわけがない。

「さて、どうしてくれようかしら」
「ほ、ほんの出来心だったのですー。お代官さま、どうかお許しをっ!」

『まったく、謝るくらいなら最初からやらなければいいのに』

 普段ならそう言ってお尻ぺんぺんなのだが、不思議と今日はそんな気にならなかった。いや、不思議でもなんでもない。理由などわかりきっていることだ。
 私は小さなクドリャフカを背後から抱き寄せると、そのままぎゅうっと抱きしめる。

「わふっ」
「罰として、今日はこのまま朝まで眠ること。いいわね?」
「は、はいー……できればその、優しくしてくださると、大変助かるといいますか、なんといいますか……」
「いつまで馬鹿なこと言ってるのよ……」

 クドリャフカを抱えたままベッドにもぐりこむと、幾許かもしないうちに、瞼が自然と下りてきた。

――今日は、よく眠れそうね

 陽だまりのような少女の、暖かな体温に包まれ、私は深い、深い眠りについた。

  

<了>

  


面白かったらぜひっ

あとがき

 とりあえず百合展開だと思った人は今すぐ腹筋で肉体と精神を鍛えなおすように。

 そんなわけで、いつもどおりのあとがきです。おかしいな、本当はもっと感動的というか、しんみりとしたフィナーレを用意していたはずなのに、書く直前になって変なものが舞い降りたせいでシュールな展開になってしまった……でも多分、こっちのほうが俺らしいかな。俺の中ではクドと佳奈多はこんな関係なんだ、すまない。

 まあそんな蛇足部分はおいておくとして、本当に書きたかった前半部〜中盤までについて少し。

 原作中(EXのみ)においてちらっと話にあがったネタを作者なりに広げてみました。多分思いついた人はいるでしょうし、もしかしたらすでに作品としてどこかのサイトにあがっているのかもしれませんが、それでも出すぜ! 

『傷跡を気味悪がらないでいてくれるだけでいい』

 という台詞が出てくる佳奈多とクドのちょっとした小噺を、作者なりに味付けしつつ形にしてみましたので、どうぞ召し上がってみてください。おいしくなかったらごめんなさいね><

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