「特技はスカートめくりとありますが?」

 緊迫感に包まれた面接会場の中。
 5人の厳しい面構えの面接官を前にして、僕は自信満々に言い放った。

「はい、スカートめくりです」

 僕の不敵な態度にひるんだのか、やや困惑した表情で、真正面に座った面接官が問いただす。

「スカートめくりとはなんですか?」
「知らないんですか?」

 やれやれ、そんなことも知らないのか……。
 内心ため息をつきつつも、僕は疑問顔の面接官に丁寧に説明した。

「スカートめくりとは、対象の女の子のスカートを捲り上げてパンツ丸見えの状態に至らしめることです。通常、相手が気づくケースと気づかないケースがありますが、僕が得意とするのは後者のほうですね」
「はぁ」

 なんだその気の抜けた返事は……せっかく説明してやったというのに!
 とは思ったが口にはせず、落ち着いて面接官の次の言葉を待つ。

「……で、そのスカートめくりは当社において働くうえで何のメリットがあるとお考えですか?」
「はい。男性社員に対し、心のオアシスを提供することができます」
「いや、当社は男性社員の比率がものすごく低いと、パンフレットにも掲載済みなのですが。それにスカートめくりは犯罪行為ですよね」

 たしかにそうだ……。
 なんていうとでも思ったか、ばーか!

「でも、心のオアシスですよ?」
「いや、オアシスとかそういう問題ではなくてですね」
「大丈夫、ターゲットには絶対気づかれない自信があります。何度もやってきたことですから。何なら今ここで実践してみせましょうか」
「おい、誰か警察呼んでくれ!」
「まあまあ、それには及びませんよ」

 スーツのズボンを脱ぎ、スカート姿になる。
 こんなこともあろうかと、あらかじめ仕込んでおいたのだ。
 目が点になった面接官5人を前にして、僕はレクチャーを始める。

「まず第一に重要なのは、相手の死角を狙うことです。こう、この角度ですね……わかりますか? わからない? どっちですか!? うんとかはいとかあるでしょう!? ……よろしい。そして次に忘れて欲しくないのは、自分以外の誰も見てないことを確認することです。不特定多数に見られちゃ、相手が可哀相ですからね。そして――」
「もしもし、警察です。えー、こちらに変態がいるとの通報があったのですが――あっ! なんだ貴様はぁ!?」
「な、何をする!? 離せ、まだ途中なのに! あーーーーーっ!」














スカートめくりから始まる一つの恋物語











「やれやれ、これで20社目か……」

 自動ドアをくぐりぬけ外へ出ると、今しがた追い出されたビルを見上げた。退廃的な、くすんだコンクリート色に染め上げられたその巨大な建築物が、惨めな僕をあざ笑うかのように聳え立っている。それをぼんやりと眺めつつ、小さくつぶやいた。

「ウケると思ったんだけどなぁ」

 世の中そう上手くはいかないものだ、と実感する。
 それとも、言い回しが面白くなかったのだろうか。

「とりあえず、どっか喫茶店にでもよって休もう……」

 真夏の炎天下、正常な思考よ燃え尽きよとばかりにギラギラと照りつけてくる太陽に舌打ちを鳴らし、一歩前に踏み出す。馬鹿馬鹿しい。こんな糞暑いというのにいつまでも外には立っていられない。僕は、未だに着慣れないスーツと履きなれない革靴を引き連れて、目の前の喫茶店を目指すことにした。



「いらっしゃいませー。お一人様ですか?」
「はい」

 かわいらしいウェイトレス姿の女の子に案内されて席へとついた僕は、『ご注文お決まりになりましたらお呼びください』といってぺこりとお辞儀をして去ろうとする女の子のスカートを右手でさりげなく翻し、フリルのついた水色のかわいらしい下着であることを確認しつつ、左手でメニューを開いた。視線をメニューの固定したまま辺りを確認したが、誰もこちらへ注意を払った様子はない。

 誰も気づいていない。
 完璧だ。

 内心にやりとほくそ笑む。どうだみたかとばかりに小さくガッツポーズを決め、しかし表情にはおくびにも出さずいかにも何を食べようか迷っている優柔不断な若者然とした態度で、次のターゲットを物色することにした。





 いつからだろう。
 いつから僕は、こんな危険な遊びに興じるようになったのだろう。

――ゲーム、スタート

 いつかの、誰かの声が脳裏をよぎる。
 それは、誰の声だったろう。
 今はもう、思い出せない。
 それを僕はいつ、どこで、誰から聞いたのだろう。
 そんなに昔のことではなく、そんなに最近のことでもないはずだ。
 それはここではなく、どこでもない場所。
 それは、誰でもない、彼女。
 ……彼女?

 思い出そうとするといつだって思考はそこで停止する。
 まるで悲しいことを思い出すことで心がつぶれないよう、脳が必死に防衛しているように。
 だから僕はそこで考えることを諦め、精神を集中する。
 ……今の僕にできることといえば、繰り返すことだけだ。
 だから今日も僕は、自分を奮い立たせるように、誰にも聞かれぬよう小さくつぶやく。

「ゲーム……スタート!」

 言葉を発した瞬間、ぞくりと電流のような刺激が、体中を駆け巡った。
 視界は開き、聴覚はどんな音でも聞き逃すまいとばかりに研ぎ澄まされていく。
 こつ、こつ、という靴が床を叩く音を耳が拾う。
 後方右斜め45度、距離およそ3メートル。
 ……まずい、まさかさっきの、気づかれていたのか?
 いや、落ち着け、慌てるな、直枝理樹。
 証拠はないんだ。
 万が一疑われるようなことがあっても、シラを切りと押せばいい。
 『えぇ〜ぼくなんのことかわかんなぁ〜い』とか、なんかそんな感じで。

「あの……」

 と、そんな馬鹿なことを考えていたら、件の接近者が声をかけてくる。
 女の声、だが先ほどのウェイトレスではない。どことなく凛々しさを帯びた、よく通る美しい声だった。
 どうする……なんと答えようか。
 いやまて、相手がまだ用件すら切り出していない段階で先走るのは得策ではない。
 ここは一つ、相手の出方を窺うべきだ。

「ご注文はお決まりでしょうか?」

 なんだ、単に僕が遅いのに焦れて様子を見にきただけか。
 身構えていた体が緊張から解き放たれていく。
 ぐったりと椅子にもたれかかりそうになるのを懸命にこらえつつ、返答しようとウェイトレスの顔を見やった。

「……っ!」

 お代を払ってもいいと思えるほどの眩しい笑顔が、そこにあった。
 年の頃は僕とそう変わらないだろうか。
 見ているだけで心が洗われていくような、神々しさすら感じられるほどの満面の笑み。
 彼女がそこにいるだけで、広大な砂漠の真ん中にオアシスを見出したかのような救いを感じる。
 ふと辺りを見回せば、その笑顔に見とれていたのは僕だけではなかったようで、他の客席からもこちらへと向けられた(正確にはウェイトレスの笑顔に向けられた)視線を感じた。

「……お客様?」
「え……」

 しまった。
 どうも不自然な間を空けてしまうほど見とれてしまっていたらしい。
 端正な顔立ちの、パーフェクト・スマイルに翳りが表れていた。
 そのことに気づき、慌てて僕は応答する。

「あ、ああ、もうちょっと待ってください」
「かしこまりました」

 ウェイトレスの女の子は僕の不審な態度も意に介さず、また太陽のように暖かな笑みで僕を照らしてくれた。
 それにこちらも笑顔で応え(多分僕の顔はにへらっとだらしなく緩んでいたことだろう)、さりげなく右手をテーブルの下に潜ませておく。
 メニューを開き、今にも決まりそうだという態度をとっていると、予想通り彼女は律儀にその場から不動の姿勢を保っている。

「あ、今決まったので、いいですか?」
「はい、承ります」

 そういうと、彼女は制服のポケットから注文用紙を取り出し、ペンを持って待機する構えをとった。
 両手が塞がっているにもかかわらず、何の疑いもなく僕の注文を待っているらしい。

(今だっ!!)

 その隙を逃さず、僕は隠していた右手をここぞとばかりに軽く握って拳を作ると、鋭角からえぐりこむように手首をしならせ、拳をショートアッパーのようにすばやく跳ね上げた。獲物に襲い掛かる蛇を思わせるその動きは、防衛ラインを悠々と突破し、その奥に秘められた秘宝の正体を明らかにすることだろう。
 と、思いきや、

「なん……だと……?」

 ぱしっと乾いた音があがり、右手首に鋭い痛みを感じる。
 ほんの一瞬前までペンで塞がっていた彼女の白く滑らかな右手が、僕の手首をがっしりと掴んでいたのだ。
 驚きの余り何が起きたかわからず、ただ視線を彷徨わせていると、ウェイトレスと眼が合った。
 先ほどまでの笑顔が嘘であったかのような、ただ冷え冷えとした、尋常ならざる殺気を帯びた双眼。
 それが今、僕を蔑むかのように見下ろしていた。

「……ご注文は、お決まりですか?」

 底冷えするような、ぞっとするほどの低い音でそう訊ねられる。
 僕はといえば、言葉もないままこくこくと頷くと、小さな声で『カルボナーラ』と応えるのが精一杯だった。
 それを注文用紙にメモすると、彼女はそのまま僕とは眼を合わさず調理場のほうへと去っていった。
 その間僕の心臓はずっとどきどきしっぱなしで、料理が届いてからも収まらず、せっかく注文したスパゲティもろくすっぽを喉に通らない有様で、僕は何度もお水のお代わりを頼んでは、先ほどのウェイトレスが来てくれないかと待ち望んでいた。
 ……結局彼女が僕の許へ来てくれたのは、注文を取りに来たあの一回だけで、



 その去り際、胸元に誂えられたネームプレートの『あや』という文字だけが、僕の脳裏にこびりついていた。



***



 悔しかった。
 あれほど完膚なきまでに止められたのは、初めてのことだった。
 僕の中で天下無敵とまで位置づけられていたあの来ヶ谷さんだって、僕のこの特技を前にしてはなすすべもなく、黒いアダルティックな下着を露呈せざるを得なかったのだ。
 それが、名も知れぬ街角の喫茶店で働く一介のウェイトレスに食い止められるなど、あってはならないことだ。

「くそう……何者だ、あの女……」

 あの日以来僕はずっと彼女のことばかり考えている気がする。
 これはひょっとして、恋、なのだろうか?
 ……馬鹿な。
 そんなはずはない。
 ただ、僕は僕が得意としていた必殺技を、いともたやすく止められたのが、たまらなく悔しかっただけだ。
 幾多もの死線をくぐり抜け鍛え上げられた匠の技。
 それを、赤子の手をひねるかのように軽く止めたあのウェイトレスに、僕は興味を抱いているにすぎないのだ。

 いつからこんな悪戯に興じるようになったのか、もう忘れてしまったが、少なくとも僕のスカートめくり人生における最も古い、原初の記憶を思い描くことは出来た。
 その女の子は、腰まで届く長い髪を靡かせ、子供みたいに何かに夢中になっていて。
 僕はその後ろで、そんな彼女の様子を微笑ましく見守っていた。
 そうして見守っているうちに、ふと悪戯心が湧き上がった。
 湧き上がってしまった。
 僕は彼女に気づかれないよう細心の注意を払ってスカートのすそに手をかけると、ゆっくりとそれをめくった。
 そこにあったのは、眩いばかりに光り輝く桃色の奇跡。
 そこから、僕のこの歪んだ人生が始まっていたんだ。

 彼女のことが好きだった。
 僕がそう告げるといつだって彼女は、『げげごぼ』とか不気味な声を挙げて誤魔化していたけれど。
 僕は彼女のそんなところも好きだった。
 ……好きだったんだ……。
 名前も、顔も、うろ覚えで。
 声すらももう遠い昔に置き去りにしてしまった記憶のように、はっきりとは思い出せない。
 それでも、好きだったという気持ちだけが残っていて。
 そのやり場のない気持ちを抑え切れなくて、僕はこんな悪戯を繰り返していたのかもしれない。
 そうやって続けていれば、いつか見た、ピンク色の秘宝をもう一度目にすることが出来るかもしれない。
 そんな夢を抱いて。

 でも、いつまでもそんな夢を見続けていることはできなくて。
 卒業だとか、就職試験だとか、世間の目だとか、そんな現実が押し寄せてくるのを、僕はただじっと見ていることしか出来ない。
 だから、終わらせたいと思った。
 もうこんな夢は終わらせて、新しい何かを捜し求めるべきなんだ。
 前に進むべきなんだ。
 そう、思った。
 だから僕は、今日、終わらせに行く。
 その栄えある最後グランド・フィナーレ に、あのウェイトレスほどふさわしい相手はいないだろう。
 さあ、行こうか。



***



 よほど印象に残っていたのだろうか、一度きりしか足を運んだことのない喫茶店へ、僕は迷わず向かっていた。
 目的はもちろん、彼女を連れ出して隙あらばスカートをめくることだ。
 あからさまに犯罪行為なのだが、僕はあえて気にしないことにした。

 喫茶店の前まで来ると、ちょうどあがりの時間だったのか、私服姿の『あや』が扉から出てくるところだった。
 危うく頭をぶつけそうになるも、かろうじて避けると、ちょうど彼女と目が合った。

「あ、ごめんなさ……ああああああ! あんた、この間の!?」
「や、やあこんにちは。今夜は月が綺麗ですね」
「いやまだ夕方だし月とか出てないし。っていうかあなた、よくあたしの前に堂々と顔を出せたもんね……そんなに死にたいのかしら?」

 ぺきぺきっと指の骨を鳴らす彼女を見て、『それやると指太くなるよ』と忠告しようとしたが、さすがに空気を読んでやめておく。
 代わりに、首をぶんぶんと振って、

「いやいや、死にたくはないですから。っていうか、あの、この間はすみませんでした。つい出来心でやってしまったんです。反省してます」
「へっ? ああいや、そんな風に出られると何ていっていいやら……その……まあいいわ、別に見られたわけじゃないし」

 そう謝ると、彼女も何故かとたんにしおらしくなってしまう。
 おそらく、想定外の出来事にめっぽう弱いのだろう、もじもじと指をいじくったかと思うと、上目遣いで僕の顔を窺うようにじーっと見つめてくる。
 と、彼女の顔が、何かに気づいたようにはっとなる。

「……何か?」
「あなた……いいえ、まさかね」

 なんでもないわ、といって首を振ると、そのまますたすたと僕の脇を通り抜けようとするので、僕は慌ててその後ろ姿に声をかけた。

「あのっ!」
「……何? まだ何か用なの?」

 憮然とした表情で振り返る少女。
 その顔には『はやく帰ってご飯食べて寝たいんだけど』とありありと書かれているようだった。
 しかし僕はくじけずに用意しておいた言葉を口にする。
 終わらせなければならないのだから。

「あのさ、お詫びといってはなんだけど、これから時間あるなら、ご飯でも一緒に食べない? もちろん僕が――」
「おごってくれるの!?」

 おごってあげるよ、という前に先制されてしまった。
 っていうか、ものすごい食い付きのよさなんですけど。
 釣りでいうところの『入れ食い』状態だ。
 自分から仕掛けておいて言うのもなんだけど、いいのかこんなんでと思ってしまう。

「あ……こほん!」

 自分でも浅ましいと思ったのか、照れくささを隠すように咳払いすると、彼女は矢継ぎ早にまくしたてるように話し始めた。

「いや、違うのよ? 別に貧乏でいつもひもじい思いをしてるとか、そんなんじゃなくて……そりゃあ、父親は各国を転々とする医者で、しかもボランティアじみたことばっかやってるから全然お金たまらなくて、今日も納豆と梅干をおかずに寂しくご飯を食べようとしてたけど、それとあなたの誘いを受けるのとはまったく、全然関係ないから! 単にその、せっかくの誘いを断るのも悪いかなと思ってるだけで!」
「えーと」
「何よその『ああ、この人は貧乏が高じて賄い目当てに喫茶店でバイトするほどひもじいんだろうな』って目は!? ええそうよ、どうせお金稼ぐなら食事付のほうがいいかなって思って喫茶店のウェイトレスやってみたわよ! でもここじゃ賄いなんて出なくて今日も家で作ってきたおかかおにぎり一個で昼の最前線をなんとかやり過ごして、今もへろへろ状態よ! ざまあみろでしょ!? 笑っちゃうでしょ!? 笑ったらいいじゃないの! あーっはっはって笑っちゃいなさいよ! あーっはっはっはっは!」

 どうも第一印象よりも遥かに親しみやすそうな人らしい。
 声高らかに自虐し始めたかと思うと、今度は道端にしゃがみこんでなにやらぶつぶつと唱え始めた彼女を見て、自然と笑みがこぼれるのだった。

「とりあえず行こうか。……その、人目もあるし」
「そ、そうね……」

 くーっと可愛らしい音が聞こえたが、あえてそれを無視して僕らは歩き出していた。



***



「食べ過ぎてぎぼぢわるっ……」
「いやまあ」

 全国チェーンのファミリーレストランから外へ出て一歩目、それまでは何ともない様子だった『あや』さんは、突然僕にもたれかかったかと思うと顔を真っ青にしてえずいていた。無理もない。他人のお金だからってハンバーグとかステーキとか、遠慮なくどかどか一人で頼むものだから、僕はといえばコーヒー一杯しか頼めなかったじゃないか。くそう。こうなったら意地でもスカートめくってやる。
 悔しかったのでそれみたことかとばかりに視線を向けると、その意図を掴んだのか、むっとした様子で頬を膨らませてそっぽ向かれてしまった。

「何よ、その『ああ、胃袋のキャパシティ度外視でバカバカ喰うほどお腹を空かせてたんだろうなぁかわいそうに』って目は……そうよ、悪い!? そりゃあ人間だもの、お腹だって空くわよ!? おかしい!? そうよね! 女の子が気分悪くなるほど食べ過ぎるなんて滑稽よね!? なら笑いなさいよ! 笑えばいいじゃないの!? あーっはっはって笑っちゃいなさいよ! あーっはっはっはっは!」
「いやでも、いい食べっぷりだったと思うよ」
「くっ……あなた、地味に嫌味っぽいわね……まるで紙に水滴を落としたときみたいにじわりと刻み込まれていくんだけど……」
「それはそうと、さっきまでは平気そうだったのに、どうして外へ出た途端に気分悪くなったの?」
「さっきだって気持ち悪かったわよ、ただ店内でグロッキー状態なとこ見せたら悪いじゃない? お店の人にもお客さんにも」
「その気遣いの10%でいいから、僕のお財布事情にも分けてほしかったよ……」

 とほほ、とだいぶ軽くなった財布を握りしめた。が、彼女は僕の言葉を軽くスルーすると近くの石段に腰掛けて僕を見上げる。

「ところで理樹くん、これから暇? あたししばらく動けそうにないから、暇ならちょっと付き合ってよ」

 ちなみに彼女が僕の名前を知っているのは、さっきレストランで教えたからだ。名前を言ったとき、何故か彼女は苗字ではなく名前で呼ぶことに拘った。彼女曰く『特に意味はないわよ、勘違いしないでよね』とのこと。
 余談だが僕も君の名前を教えてほしいといったところ、『スカートめくりをするようなあなたをまだ完全に信用したわけじゃないから』といって結局教えてくれなかった。理不尽だ、くそう。まあ『あや』っていう名前だけはわかってるんだけどね。ふひひ。

「うんまあ、暇といえば暇だけど……」

 でも今日中に君のスカートめくらなきゃいけないんだ、と喉まで出掛かっていた言葉を引っ込めて濁す。
 訝しげに眉をひそめた彼女の隣に腰掛け、もうすっかり暗くなった町並みを眺めてはぽつぽつと他愛のない世間話に興じる。
 やがて話題も尽き、二人の間を沈黙が駆け抜ける。でもそれはよく知らない人間同士にありがちな、息苦しい沈黙ではなく、どちらかといえば十年来の気の置けない友人に接するときに感じるような、心地よい静寂だった。ちょうど幼馴染の宮沢謙吾と過ごすとき、よく感じるような、安心できる間。

 なぜだろう。
 まだ会ってから間もない、しかも初対面時は軽犯罪行為の加害者と被害者という、どう考えても奇異な組み合わせの僕らなのに。
 なぜか僕たちの間には、そんな、親しみの込められた沈黙が流れていたのだった。

「ねえ、理樹くん」
「え?」

 と、沈黙をやぶるように、隣に座っていた少女が遠慮がちに言った。
 続きを待っていたが、何の反応もない。
 不思議に思って視線を向けると、彼女は自分が何を口にしようとしているのかわからないといったような、そんな困惑と、自分が口にしようとしていることの必然性を象徴するかのような、そんな確信とがない交ぜとなった、不可思議な表情を浮かべていた。

「ううん、なんでもない」

 しかし彼女は結局先を続けようとはせず、夜空に浮かぶ星をじっと見つめるだけで。
 問い直すのも変かなと思った僕も、それ以上は追求せずに、同じ星空を見上げながら、ぼんやりと物思いふけることにした。
 耳を済ませれば、都会と田舎の中間地点くらいの駅前の、中途半端な喧騒が聞こえてくる。
 若者の話し声、家族連れの会話、接客に勤しむバーのおねえさん、ゲームセンターから聞こえてくる起動音と操作音が入り混じったノイズ、etc。
 このまま座っていても(スカートめくりの)チャンスは訪れないなと悟った僕は、勇気を出して誘ってみることにした。

「ねえ、まだ時間あるなら、ちょっと遊んでいかない? 多少の腹ごなしにはなると思うよ」
「いいけど、どこへ行くの?」
「ゲームセンター」
「ゲームセンター?」

 おうむ返しにそう返事する彼女に、僕は軽く頷いて続けた。

「そう。いろんなゲームが雑多に置かれてるとこ。最近は女の子向けのとかもあると思うし、どうかな?」
「っていっても、ゲームなんてほとんどやったことないわよ?」
「大丈夫、僕もそれほど上手くはないから」
「何か、変な自信を持ってるのね、あなた……まあいいわ、どうせ帰っても寝るだけだし、少しだけなら」

 普通女の子を誘う場所にゲームセンターを選ぶのはNG中のNGだったりするのだが、何故か僕はこのとき、彼女を誘う場所にこれほどふさわしい場所はないという、根拠のない確信を抱いていたのだ。

 ……『あや』さんと出会ってからこっち、僕はいつも『なぜ』とか『どうして』とか考えてる気がする。どうしてだろう? あ、ほらまた『どうして』だ。おかしい。いや、僕がおかしいのはとうの昔、スカートめくりを極めたときからだからそれはいいのだが、それを別としても、常に疑問に頭を悩ませているほど思慮深い人間というわけではない。単に無意識下の行動、あるいは気まぐれな行動と取れなくもなかったが、ここ最近の出来事には何か意味がある、そんな気がした。

「ついたわよ? なにぼーっとしてるの?」
「え? ああ、ごめんごめん」

 自動ドアの入り口で振り返って不思議そうに僕を見つめる少女に少しどぎまぎしながら、後をついていく。
 店内に入ってまもなく、『あや』さんが入り口脇に設置してあったクレーンゲームを興味深げに眺めていたので

「やってみる?」

 と声をかけてみたが、

「でもこれ、一人でやるものでしょ?」

 と遠慮がちにいって奥へと進んでしまった。
 おかしいな……僕の予想では『くだらない』とかいいつつ奇声を上げるほどハマる『あや』さんの姿が見れるはずだったんだけど。
 そうすれば堂々とスカートめくりが出来たはずなのに……(これはこれでどうかと思うが)

 アテが外れたので、しばらく黙って彼女の後をついていくことにする。彼女はゲームセンターに入るのが初めてなのか、興味深げにレースゲームやら格闘ゲームやらの筐体を見ながらも、特にやりたいわけではないのか、さっさといってしまう。なんとか彼女の興味を引きたくて、いわゆる『音ゲー』と呼ばれる、楽器に模したコントローラーを操って遊ぶゲームの前で、ギターっぽい何かを抱えて『ロックンロール!』と叫んでみたが無視されてしまった。ひどいや。

 だんだんと不安になってくる。
 やはり女の子をゲームセンターに誘うなど、愚の骨頂だったのだろうか。
 醒めた目で店内を眺め回す『あや』さんの隣で、僕は冷や汗をかいていた。
 このまま『やっぱり帰る』とかいわれたらどうしよう。
 それはなんだかみっともないし、何より目的を達成することが出来ない。
 それだけはなんとか避けなければ……。

 と、ぐるりと店内を一周する寸前、一際大きい筐体の前で、彼女の歩みがぴたりととまった。
 そのまま興味深そうにぺたぺたと機械を触ったかと思うと、僕のほうを振り返って問いかけてくる。

「理樹くん、これは何?」

 彼女を立ち止まらせたのは、二つに分かれた大きなスクリーンが目立つ、いわゆるFPS(ファースト・パーソン・シューティング)形式のガンシューティング・ゲームだった。筐体に描かれた絵――近未来系を想起させる宇宙服のようなものを身に着けた男女がそれぞれ明後日の方角へ向けてハンドガンを構えている――が目に映る。どうやら地球を侵略しにきた異星人を撃退するという趣旨のゲームらしい。『あや』さんは、手元の銃型のコントローラーを握りしめると、僕に向けて『ばんばーん』と口にしながらトリガーを引く真似をする。そのなんとも微笑ましい姿に、笑いが漏れてしまった。

「理樹くん、撃たれて喜ぶなんて、あなた変態なの?」
「いや、別に撃たれて喜んだわけじゃないんだけど」

 今度は画面に向けて『ばんばーん』と撃つ。それから僕のほうを向き直ると、不敵な笑みを浮かべて言ってきた。

「ね、これで勝負しない?」
「勝負っていっても、これ対戦型じゃないんだけど」
「そうなの? でも各自のスコアは出るんでしょ? だったら、どっちが高得点を取るか、勝負!」

 やけに自信ありげにそう宣言するので、僕も負けじと「望むところさ」と、にやっと笑って返事した。
 実際のところ自信はまるでなかったが、そんなものは関係ない。
 僕はただ、彼女のスカートをめくることができればそれでいいのだから。

「じゃ、ゲームスタート」

 そう、これはゲームだ。
 僕と彼女の、一騎打ちのゲーム。
 ああ、この感覚を懐かしいと思ってしまうのは、なぜだろう。
 頬を伝う涙の理由を知らないままに、僕は財布から100円玉を取り出して投入口へ入れると、画面に向けて銃を構えた。

 第一ステージが始まる。
 絵に描いたような典型的なタコっぽい火星人らしき人型生命体がわらわらと画面の端から端を右往左往する。
 僕は一体に狙いを定めずに、横一直線に銃を流してトリガーを連打した。
 ダダダダダダダダッ!
 弾切れになったら即座に画面の外へ銃を向けてリロードする。
 またすぐに画面へと戻し、連打。
 三度ほど繰り返すと、もう敵はいなくなっていた。

「へえ、やるじゃない」

 横からの声に顔を向けると、とっくに敵を倒し終えていた『あや』さんが余裕の表情でこちらの画面を窺っていた。

「でも、スマートじゃないわね」
「まあね」

 ダメ出しをされてしまったが、そんなことは僕にとってはどうでもよかった。もうすぐ、もうすぐだ。いずれチャンスはやってくる。その時が、君の最後さ……。

 交差する視線。
 明滅する思考。
 しかし、焦りはない。
 全力で反応している。
 全力で歓喜している。
 恐れる必要などない。
 怯える必要など、ないのだ。

 僕は第二ステージが始まるよと促し、彼女の注意を画面へと向けると、左手を彼女のお尻に向けスタンバイさせつつ、右手で銃を構えて画面に向けた。
 第二ステージが始まる。
 今度の敵はアダムスキー型の円盤が空中をくるくると回転するように浮遊しており、時折レーザーみたいなのをこっちへ向けて撃ってくるようだった。多分あれにあたるとライフゲージが一つ減るのだろう。撃たれる瞬間に敵が赤く光るので、その瞬間にすかさず打ち落とせばこちらにダメージはない。僕は第一ステージで使った作戦は実行せず、赤く光ったのを優先的に撃ち落す作戦に出た。左手は『あや』さんの履いているスカートの裾を掴み、あくまでも視線はゲーム画面。あまった右手でUFOを撃ち落しながら、機を図ることにする。

「おらおらおらおらー!」

 隣の少女が狂ったように奇声を上げてUFOを撃ち落していく。その様子に店内の客が何事かと注意を向けてきたが、彼女に気にした様子はなかった。というよりは、気づいていないのだろう。
 ……つまり、それほど夢中になっている、ということだ。

 観客の目が「なんだ、ゲームに熱中しているだけか」と興味の失せた色に変わり、それぞれの席へと戻っていった瞬間、僕はチャンスとばかりに左手に力を込めてスカートを捲し上げた。





 夢か、現か、幻か。
 その先にあったものは。
 いつか見た、ピンク色の奇跡。





 いつしか僕は銃を取り落とし、彼女の下半身を注視していた。
 引き締まった太ももの上、目がくらむほどに鮮やかな、サーモンピンク。
 いつか見た、僕を狂わせた奇跡が、そこにはあった。





「好きです」
「え……?」

 気づけば僕は彼女の手をとって、そう告白していた。
 白く滑らかな、女の子らしい華奢な手を包み込む。
 じわり、と暖かな人肌を感じた。
 戸惑いの表情を浮かべるばかりの彼女に向けて柔らかく微笑むと、彼女は真っ赤になって俯いてしまった。

「り、理樹くん……もしかして、ううん、やっぱり、理樹くんなの?」
「え……?」

 意外な言葉に、今度は僕が面食らう番だった。
 彼女は驚きに目を見開き、僕の顔をじろじろと眺めると、一つ頷いて続ける。

「やっぱりそうだ! なんか似てるなぁと思ってたら、理樹くんじゃない! 名前を聞いたときにそうかなぁと思ってたんだけど、でもまさか本当に……約束も覚えててくれてたんだ……」
「え? え? え?」

 一人感動している『あや』さんと、展開についていけない置いてけぼりの僕。

「なっつかしい〜! あの時はまだあんなにちっちゃくて、あたしとそう変わらない背丈だったのに、いつの間にか大分差つけられちゃったね。って当たり前か、あははっ。ね、理樹くんはあたしと別れてから今までどう過ごしてきたの? ってああん、もう、こんな色気のないところじゃダメ! どこかいい場所は……そうだ、今からうちに来ない? 積もる話もたくさんあるんだし」
「ちょ、ちょ、ちょっと待ったぁ!!」

 一人でヒートアップしていく『あや』さんとは正反対に、僕の思考は急速に冷えていく。
 さっきから彼女は、一体何を言ってるのだろうか?

「あの、ごめん、話が見えないんだけど」
「またまた、冗談はやめてよ。小さい頃、よくあたしとサッカーとかして遊んだじゃない。父の都合であたしが日本を離れることになったとき、約束してくれたのは理樹くんでしょ? 『いつかまた会えたら、あやちゃんに伝えたいことがあるんだ』って。それって、その、さっきの『好き』っていう告白のことだよね? うん、嬉しかった……あ、あたしもね、ずっと、理樹くんのこと――」
「ごめん……何それ?」
「好きだったの……ってはあああああああああ!?」

 店内を、つんざくような悲鳴が轟き渡った。
 店員と客の目が一斉にこちらに向けられるも、僕らにはそんなものに気を留める余裕はなかった。

「え? だって、あなた、直枝理樹くんでしょ!?」
「はい」
「幼馴染の友達がいるでしょ!?」
「はい」

 リトルバスターズの4人がまさしくそうだ。

「その幼馴染は、ずっと昔に海外に行ってしまった。そうよね?」
「いいえ」
「あなたはその幼馴染と、昔に約束をした」
「存じ上げません」
「……」

 『あや』さんがふらっと倒れそうになる。
 慌てて体を支えようとしたが、手を撥ね退けられ、あまつさえ睨みつけられてしまった。
 彼女の怒りの原因はどうも僕らしいのだが、僕自身には自覚がないのでどうしようもない。
 仕方がないので彼女の言葉を待つことにする。

「え、待って、じゃあなに、さっきのあたしの決死の告白はなんだったの……そうよ、告白よ! あなたさっきあたしに告白したでしょ!?」
「はい」
「それって、例の約束、なんでしょ……?」
「いいえ」
「じゃあなんでいきなり『好きです』とか言ったりするのよ! あなた的には、あたしは出会って間もないどこぞの馬の骨同然でしょ!? どこに好きになる要因があるのよ!? それともなに、あなた出会った女を片っ端から口説きあげるジゴロってわけ? そうなの!? そうなのね!?」
「いやいやいやジゴロとかないから……君に告白したのは、君がピンクの奇跡の持ち主だからだよ」
「はああああああ!? 何それ、意味わかんない! はぁ? ピンクの奇跡? 何それ? はぁ?」

 ついつい「3わけわからんポイントゲット!」と叫びたくなったが殺されそうだったのでやめておく。

「ピンク色の奇跡というのは、つまりだね」
「そんなことはどうだっていいのよ!!」

 そう叫び散らすと、唐突に俯いて肩を振るわせ始めた。
 まさか……これは!?

「うう……うわああああぁぁああああぁぁああああん、理樹くんに、乙女心踏みにじられたああああああああ! わあああぁぁああああああぁぁあああん!」

 マジ泣きされた!?
 周囲の突き刺さるような視線をかいくぐり、宥めるように彼女の頭をなでる。

「ちょ、ちょっと泣かないでよ、あやさん」
「え? あや? ……あ、今理樹くん、あやって言った! あたしの名前、覚えてるんだ!」
「いや、さっき自分で言ってたでしょ」
「うわああああああぁぁぁああああああああああぁぁぁあああああん!!」

 しまった、ここは嘘でもいいから「覚えている」というべきだったか!
 さらに激しく嗚咽する彼女を、何とか店の外へと連れ出し、近くのベンチに座らせる。
 全然泣き止む様子がないので、なんとかしようとソフトクリームを買ってみたけど、見事に蹴り飛ばされてしまった。ちょっとショックだ。
 仕方がない。
 あまり嘘をつくのは好きじゃないけど、緊急事態だ。
 なるべく棒読みにならないようにして頭に浮かべた台詞を読み上げる。

「あ、あー、あやちゃんね。うん、あやちゃん、あやちゃん。あー、あやちゃんじゃないかー。ひさびー(*久しぶり、の意)じゃん! 元気だった? うんうん、元気かーよかったよかった、なんていってもあやちゃんだしね。ひゃっほう、あやちゃんばんざーい!」
「こ……」

 我ながら迫真の演技だったと思う。
 ほらその証拠に、『あや』さんも顔を上げて――

「こ、こ、こ……」
「こけこっこー?」









「殺すっ!!!!!」









 ぶちぃっという何かが切れた音とほぼ同時、ひゅんという風切音を携えた稲妻のような蹴りが飛んでくる。
 かろうじて視認できる程度には見えたので慌てて後ずさると、蹴りを放った少女が燃えるような目つきで僕を睨みつけてきた。

「避けるなぁっ!!!」
「いや、普通に避けますから!」

 いかん、この場にいてはマジで殺される。
 瞬時にそう悟り、慌てて駆け出すと、すぐ後ろから追いかけてくる気配がした。

「待てこらあああああああああああ! よくも純情乙女の気持ちを裏切ったなああああああああああ! 死なす、絶対死なす、意地でも死なすぅ!!!!」

 うわああああああ。
 あの可愛らしい笑みはどこへやら、般若の相で追っかけてくる少女。
しかし僕は、そんな状況だというのに、不思議と胸が高鳴っていた。

 ピンク色の奇跡。
 二度とお目にかかることはないと、ずっと前に諦めてしまっていたもの。
 あれからの幾多もの試練の先、今日という日に、奇跡は再び顕現したのだ。
 願っていた。
 ずっと待ち望んでいた。
 いつかこうして、相見える日が来ることを。
 ずっと、ずっと、待ち望んでいたんだ。
 おかえり、沙耶――





 蘇るはずのなかった記憶の中の少女に呼びかける。
 タイム・マシンに乗って消えてしまった、あの少女の名を、そっと、大事な宝物のように、優しく。
 そうか、『あの子』が『キミ』なんだね。
 今は思い出せないけど、いつかきっと、思い出す。
 そして、そのときは『約束』を果たすよ。
 絶対に。

「もらったああああああああああ! 喰らえ、延髄切りいいいいいいいぃぃぃ!!!!」
「うわあああああああああああああああ!?」

 今日、生き残れたら、だけど。
 首筋に一撃を喰らって急速に意識が遠のいていく中、少女の黒いパンプスの、かかとの部分が頭上めがけて襲い掛かってくるのが最後に目に映った。

  

<了>

  


面白かったらぜひっ

あとがき

「活字だけで何もかも表現をするというのはとても難しい」

 前々から思ってはいたことですが、この作品を通して改めてそう実感させられました。
 なんといいますか、『動き』を表現するのがひどく難しいです。
 悩んで、呻いて、喚いて、ようやく書けたかと思いきや全削除。
 結局それほど拘らずに、軽く流す程度が今の自分の実力に一番見合っているということに気づくのに、大分時間がかかりました。
 いつか、いつか自分の納得のいく文章を、書いてやるんだ……orz

 と、まあ愚痴はここまでにしておいて。
 今回のSSですが、お馬鹿な作品ながら自分なりに思い描いた『朱鷺戸沙耶』あるいは『あや』というキャラクターの、原作エンドのその後を書いてみたつもりです。馬鹿なノリを最後まで突っ走ったほうが面白かったのかもしれませんが、自分なりに沙耶を整理したいということもあって、水と油のようにシリアスとギャグを織り交ぜる構成となりました。その分文章量が多くなってしまい、大分削ったとはいえ短編で収めるつもりがいつの間にか30KB超えていたという……。なお、序盤の面接シーンは割りと有名なコピペネタです。最初はこれが書きたかっただけです。いや、嘘じゃなく、マジで。

*追記:文章一部訂正済み(8/9)
*追記:ネタ一部修正(8/10)

 以下、沙耶シナリオの考察、というよりは自分なりの沙耶の在り様についてメモ書きしておきます。読んでも得られるものは何もないのであしからず。(文字反転)





















 さて、沙耶に関しては諸説様々かとは思いますが、論点は大まかに以下の三つくらいなんじゃないかなと思います。

@なぜあやは虚構世界に乱入できたのか?
A虚構世界がすでに成立した時点で、あやは生存していたのか? またそうだとすると、あやを助けることは出来るか?
Bタイムマシンの存否と存在意義

 このうち@に関しては、正直よくわからんです。原作で示された手がかりから虚構世界のルールを解すれば、今わの際の強い想いがあの世界を作り上げる、ないし世界に干渉できるといったところでしょうか。記憶違いでなければ原作でそんなようなことを理樹が言ってた気がします。まあ死ぬはずのない佳奈多がいたりとか、今一つ筋の通った結論が出しにくいのですが。あやの場合、駆け抜けたかった青春がここにはあった、という理由で虚構世界に乱入してきたようですが、どうやって入ってきたのか、というよりはその形態、つまり生きている人間なのか死んでいる人間なのか、そこがポイントになってくると思います。

 そして明らかにあやは虚構世界において例外エラーに当たるのは間違いない。これはAにも通ずるところがあるのですが、あやは原作中の表記から、冬に事故にあっているようです。これは修学旅行が6月あたりに行われているところから見て、明らかに虚構世界成立時からかけ離れた時間軸での出来事なわけで、そうすると死亡説が濃厚になってくると思うのです。本人も「死んじゃったんだからああああ」と叫んでますし、虚構世界成立時点で亡くなっていると考えるのが妥当かな、と。ゆえに、例えば虚構世界が崩壊した後、あやもあの現場のすぐ近くにいて偶然助けることが出来たとかご都合主義な展開(俺が沙耶SS書こうと思った際に一番最初に考えた設定)には出来ないように思います。なんか事故現場の背景が似てるから、もしかしたら事故の起きた現場は同じだったのかもしれませんけど、その事実は沙耶生存エンドへは即座に繋がりはしない。そこにはどうしても時期のズレが邪魔してくるからです。さりげにあの事故時のCGのあやが幼く見えるのもまた厄介ですしね。

 そこで出てくるのがBのタイム・マシン。はっきりいって明らかにルール・ブレイカー的な存在なのですが、そんなことをいったら虚構世界そのものがブレイカーなのでそこには突っ込みません。ただなぜあそこで唐突にタイムマシンが出てくるのか。沙耶は原作中、学園の秘宝は「生物兵器」にしてほしいといってるはずです。おそらく自分があの世界から消える理由が欲しかった故の選択だったのでしょうが、それがなぜかタイムマシンに入れ替わっている(ように見える)。もっとも身体自体をそのまま過去に戻す類のものではなく(ていうかそんなことがあったらさすがの俺でも引く)、記憶を幼い頃に引き戻すのが関の山のようですが、それでもそういった現象が起きてる以上、秘宝はタイムマシンということになっていたのでしょう。まあこの疑問は理樹と沙耶の会話をどこかで聞いていた恭介の粋な計らいといえばそれまでなんですけどね。ただ『いくら虚構世界だからってそんなことまでできちゃっていいのかよ!』と突っ込みたくなったのは俺だけじゃないはず。

 で、タイムマシンで記憶だけ過去へと戻ったあやがその後どうなったのか。どうもあやちゃんは幼い頃の理樹君と出会っているようなのですが(タイムマシンのあるなし関係なく)、記憶を引き継いだことでそこから未来はどう変わるのか? 
(A)あるいは何も変わらないかもしれません。あやちゃんが『なんだ、単なる夢か』と思ってしまえばそれまでですし。
(B)はたまた『夢』を信じ込み、父親に日本を離れないように提言するだろうか? 仮にそうなったとしても、父親が幼い子供のいうことをまともに受け止めるとは限らない。どうも各地を回って人々を助ける、みたいな理想に燃えていらっしゃる様子のあの父親を説得するには、あやちゃんは幼すぎるように思います。
(C)父親が説得され、日本にそのまま滞在することになった場合はどうなるか。おそらく理樹とあやが出会ったのは、理樹の両親が亡くなる前=リトルバスターズに出会う前でしょう。(原作の描写から考えて、もし出会っていたなら理樹は四六時中リトルバスターズとともにいたでしょうし、そうならばあやの回想シーンには他の4人もいなければおかしい。が、あやは明らかに理樹君とだけ遊んでいたようですから、この当時理樹はまだ絶望の淵には立たされていなかったでしょう)そうすると、その後で理樹の両親が事故で亡くなるはずですが、このときあやが傍にいれば、そもそも理樹はあそこまで絶望していたでしょうか? おそらくあやが隣で励ましてくれることでしょう。あるいは彼女の父親も親身になって助けてくれるかもしれません。そうした状況の中、正義の味方「リトルバスターズ」は理樹のもとへやってきてくれたでしょうか? なぜ恭介たちが理樹に手を差し伸べるようになったのか、その動機が明言されていない以上これは何ともいえないところ。個人的には、彼らが出会ったのは、町内に事故で両親を亡くしてふさぎ込んでいる不幸な少年がいるという噂を聞いて云々な展開だと思ってるのですが、ここまで踏み込むには情報が足りなすぎるのでここでストップ。確実なのは、物語で描かれていた「リトルバスターズ」という集団の形が確実に変容していただろうということだけです。理樹を除く4人のままだったかもしれないし、はたまたあやちゃんも加えて6人の「リトルバスターズ」だったかもしれない。いずれにしろ、未来が致命的に変わってしまう結果とならざるをえないかなぁと思います。人が1人いるかいないかで、彼ないし彼女の属する世界は多大な影響を受けるものですから。そして俺は、リトルバスターズという集団は、当初の設定であってほしいと願います。
(D)初めは単なる『夢』と思い込んでいたけど、後からそうは思わなくなっていた、という考え方もあると思います。タイムマシンで引き継いだ記憶というのは、おそらく虚構世界における朱鷺戸沙耶の記憶そのものでしょう。そしてその朱鷺戸沙耶という人格は、『あや』という女の子が、幼少期から先の、事故にあうまでの人生を経験してきた人物でもあります。よって、あの幼い『あや』ちゃんがこれから成長していくにつれ、自分の人生が夢の記憶と酷似していることに気づくでしょう(うわあ自分で言っててなんだけどすげえ強引だわ)そしていつしか悟るのです。あれは夢じゃなかったんだと。だとすれば自分が事故死ぬことも理解できるはずです。よし、段々どうでもよくなってきた。だからあやちゃんは日本に戻る時期を遅らせるとか、まあなんかいろんな手段で事故を回避して、やがて別の未来で理樹君と出会う、と。はいOK。その未来の一つの可能性が、本SSで描いたところの、馬鹿理樹エンド後スカートめくりにはまってしまった理樹とあやちゃんの出会い、というわけであります。ふう疲れた。


 さて、
 
 おそらくとか多分とか多すぎる穴ぼこだらけの理論だということがよくわかりました\(^0^)/
 論拠が薄弱だし、資料は少ないしで、もう無理\(^0^)/
 もう考察やーめったっと\(^0^)/
 多分これから「うおお、すげえ」と唸らせてくれる沙耶考察SSが出てくるでしょうしね。
 俺に出来ることといえば、箸休めみたいな、頭を使わないで済むお馬鹿なお話を書くことだけです。
 とりあえずリトルバスターズ最高! ひゃっほう! (完)

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