祭囃子が鳴り響く中、  
出店の客寄せ、人々の喧騒の中、  
道に沿って左右に連なる出店道を、私は歩いている。  
   
母親に手を引かれながら綿菓子を頬張る5歳ぐらいの男の子と目が合う。  
にっこり  
にっこり  
お互い笑みを交わす。  
   
中学生ぐらいだろうか、友達同士仲良く歩く集団とすれ違う。  
――貴子、あんたけーすけ君のこと好きでしょー  
――やだーそんなことないってー  
――いーじゃん、アタックしちゃいなよー
   
人々が発する熱気が夏の熱気と混ざり合い、祭り会場はひたすらに暑かった。  
申し訳程度に吹いている微風も、おしあいへしあい人の集うここでは雀の涙ほどの効果もない。  
二重の熱気にさらされ、体中から汗が滲み出る。  
だけど、それがいい。  
これでこそ、お祭りだ、と私は思う。  
仮に出店も人もこの三分の一程度しか集まらなければ、この胸の高揚感は感じえないはずだ。
   
ふと出店のひとつに目が留まる。  
小さめのビニールプールに注がれた水の中を所狭しと泳ぐ赤い金魚たち。  
中には、おめめのおっきな黒い子もいるけれど。  
かわいらしいお魚たちに目を奪われビニールプールに群がる子供たちと、彼らにせがまれ財布から小銭を取り出し子供たちに手渡すお父さん、お母さんたち。  
微笑ましい、仲睦まじい光景。  
そんな景色を私はじっと見つめていた。
   
――小毬さん  
   
どれほどの時間そうしていただろうか、ふと気づくとそばに一人の男の人が立っていた。
   
――探したよ、もう。一人でどんどん行っちゃうんだもの。
   
いつの間にかはぐれてしまっていた連れ添いに、私は舌を出して謝る。
   
――あ、ごめんね理樹君、面白そうなものがあるとついつい・・・
   
そういうと彼はため息をひとつ、苦笑いでこう返す。
   
――まあ、小毬さんのそういうところにはもう、慣れたけどさ
   
あきれたようなその口調に、  
少しムっとする私。  
ようし、仕返ししちゃおう。
   
――慣れたっていうより、元から慣れてたんじゃないのかな、鈴ちゃんで
   
私がそういうと困ったように笑いながら
   
――まあ、それはあるかも
   
なんて、少しだけ嬉しそうに言う。  
妬けちゃうなぁ・・・。  
彼の言葉にそんなモヤモヤとした気持ちを抱いていると、ふいに右手が柔らかく包まれた。  
きゅっと握られた右手。  
ぼんやりとそれを見る私。  
顔を上げると、まっすぐ私を見つめる二つの目。  
   
――こうすれば、はぐれないと思うよ
   
私を見つめたまま、少し微笑んで彼は続ける。
   
――行きたいところ、どこへでもついて行くから
   
その言葉、そのしぐさ、その笑顔が、  
私の中で、  
いつかの誰かと重なった。

  

 
喧騒の中、私はひたすら走っていた。  
ここは、どこだろう?  
周りを見ても、皆知らない人ばかり。  
こわい。  
たすけて。  
人波を掻き分け、無我夢中で走り抜ける。  
泣きそうになっていた私の目が捕らえたのは、名も知れぬ小さな赤い魚たちだった。  
水を張ったビニールプールで泳ぐ魚たち。  
気がつくと私はしゃがみこんで彼らを覗き込んでいた。  
   
――探したよ、小毬  
   
飽きずにお魚たちを見ていると、不意に頭上から声が降ってきた。  
見上げるとそこには、
   
――あ、おにいちゃん!    
大好きな兄の姿があった。  
夢中で飛びつく私。  
ほっとしたせいか、目から涙がとめどなくあふれ出てくる。
   
――だめじゃないか、勝手に一人で飛び出しちゃ  
――ごめんなさぁい・・・
   
しかられてしゅんとなる。  
危ないからもう連れて帰られてしまうのかもしれない。  
そう思うと悲しかった。
   
きゅっと  
泣いてる私の手を暖かな何かが包む。
   
見上げればそこには、いつもの優しい兄の笑顔が広がっていた。
   
――こうすれば、もうはぐれないよ  
――小毬の行きたいところ、どこへだってついて行くから
   
暖かな手の平。  
優しい兄。  
今までの不安なんて、全部消し飛んでいた。  
   
さっきまで見ていたものを指差し、兄に尋ねる。
   
――おにいちゃん、この子、なんていうの?  
――ん?ああ、これはね、金魚っていうんだよ  
――きんぎょさん?  
――そう、きんぎょさん  
――ふわぁ・・・かわいいおなまえだねぇ  
――二人でやってみようか?  
――ふぇ?やるって?  
――ほら、あのおじさんが持ってる網でああいう風に掬うんだよ  
――う〜ん?  
――そして、掬ったやつはもらえるんだ。家で飼えるんだよ  
――ええ!?もらえるの!?ほんとう!?  
――うん  
――やるやる!こまりもやる〜  
――じゃあやろうか。おじさん、二人分お願いします  
――はいよ、400円ね
   
そういって兄はお店の人にお金を手渡し、代わりに網を二人分受け取る。  
そうしてかたっぽを私に手渡す。  
   
――どうも。じゃあ、小毬、これをもって  
――うん!
   
渡された網を力強く握り締める。  
それを金魚めがけて思い切り突っ込む。  
   
ザブン!
   
水の中から再び姿を現した網は、見事にぽっかりと破けていた。
   
――はれ?  
――そ、そんなに強くやっちゃだめだって。いい、見てて?
   
そういって静かに水面に網を寄せる。  
一匹の金魚に狙いを定め、慎重に時を待つ。  
やがて金魚が水面に顔を出す。  
その瞬間を狙ってすばやく掬い、手持ちの容器に放り込む
   
――わあ、おにいちゃんすごい!  
――あはは、慣れれば小毬にもできるよ。ほら、この網使ってやってごらん
   
そういってまだ破れていない網を渡してくれる。  
   
――よぅし、こんどこそ!
   
意気込んで水に突っ込もうとして、先ほどの失敗が頭によぎり手を止める。  
慎重に、慎重に。  
兄の先ほどの実演を思い描く。  
水面をじっと見つめる。  
浮かぶ魚の顔。  
いまだ!
   
パシャッ!
   
手の平の網は、見事に一匹の金魚を乗せていた。
   
――わあ!見てみておにいちゃん!こまりにもとれたよ!  
――あ、小毬、早く容器に移さないと!  
――ふぇ?
   
兄の警告が聴こえた瞬間、
    
ちゃぽん
   
と、今捉えたはずの金魚が水面に落下していくのが見えた。  
落ちた魚は、再び自由を得て水中を泳いでいく。  
私はしばらくその光景を呆然と見る。  
そしてやがて何が起こったのかを悟り、
   
――うえーん!きんぎょさんがぁ〜
   
泣き出してしまう。  
そんな私を見て苦笑しつつ頭を撫でる兄。
   
――ほら、小毬、ここに一匹いるだろ?  
――うえーん、でも、でもぉ・・・
   
ぐずる私、あやす兄。  
そんな私たちを見て微笑ましく思ったのだろうか、  
屋台のおじさんが網を使って器用に金魚を掬い取る。  
そして兄から容器を受け取り、2匹の金魚を小さな手提げのビニール袋に水と一緒に流し込む。
   
――ほら、持っていきな
   
そういって、私の手にビニール袋を握らせる。  
無愛想ながらも、優しさを感じるしぐさだった。
   
――わぁ・・・  
――あ、すみません、いいんですか?  
――何、嬢ちゃんがとれたのは事実だ  
――ありがとうございます。ほら、小毬もお礼を言わないと  
――おじさん、ありがと〜!  
――いいってことよ。また来てくんな  
――うん、ばいば〜い
   
屋台のおじさんと別れを告げ、  
私たちは再びお祭りの中を一緒に歩く。  
左手にはお魚たちを、右手には兄の手を。  
そうして私は、幸せの中にいた。
   
やがて時間も遅くなり、私たちは家路につく。  
持ち帰った2匹の金魚を、兄が用意した金魚ばちに移す。  
小さな金魚ばちの中をすいすい泳ぐかわいらしいお魚たち。
   
――ふわぁ、かわいい・・・  
――明日、えさを買ってくるよ  
――うん!  
――だから、今日はもうおやすみ  
――うーん・・・  
――また明日、会えるから  
――うん!金魚さん、また明日ね!
   
新しい家族に別れを告げ、  
眠りに付く私たち。  
鈴虫の鳴き声が、心地よい子守唄となって私を夢の中へと引きずりこんでいく。

  

 
――そんなことが、あったんだ  
――うん
   
人ごみから外れた神社の石段に私たちは座っていた。  
先ほどまで直に感じていた喧騒の音が、今は遠く聴こえる。  
   
――いつだったか、話したことがあったよね?  
――金魚のこと?  
――そう、あの日の縁日の、私たちの金魚さん  
――あのときは、忘れちゃってたんだよね?  
――うん。でも、思い出したよ  
――そうなんだ  
――お母さんに聞いたら、教えてくれたんだ。それで、全部、思い出したんだよ
   
そうして私はまた、回想する。  
あの日の私、あの日の出来事。  
なくしものは、いつだって、私の中に。

  

 
――あれ?おかしいなぁ・・・
   
その日いつものように目が覚めた私は、もはや日課となっていた金魚のえさやりにきていた。  
そこでおかしなことに気づく。  
昨日まで二匹いたはずの金魚が、今朝は一匹しかいなかった。
   
――きんぎょさん、どこですか〜?
   
金魚ばちの外側をこんこんと叩く。  
その衝撃に、中にいた金魚が驚いてぴゅーっと逃げる。  
   
――どこ行っちゃったのかなぁ?  
   
もしかして金魚ばちから飛び出してしまったのではないかなんて考え、きょろきょろあたりを見渡す。  
当然のごとく、金魚なんていない。  
たしかに2匹いたはずなんだけどなぁ・・・。  
お母さんに聞いてみよう。  
そう思い立ち、キッチンで朝ごはんの準備をしていた母親に声をかける。
   
――おかあさん、きんぎょさん知らない?  
――金魚?金魚なら朝も見たけど、ちゃんといたわよ?  
――ちがうの。2匹いたはずなのに、1匹しかいないの。  
――何をいってるの、小毬
   
そういって包丁をまな板の上に置き、タオルで手を拭ってこちらへ近づいてくる母。  
その顔は、なんだか寂しそうだった。  
母はしゃがみこんで私と目線を同じにすると、頭を撫でて言い聞かせる。
   
――初めから、金魚は1匹しかいなかったわよ  
――ユメでも、見ていたんじゃないの?
   
ユメ?  
そうだろうか。  
たしかに、昨日までは2匹いたはずなのに。  
でも、そう言われてみると、たしかに1匹しかいなかったような気もしてくる。  
だんだんとあやふやになってくる記憶。  
そもそも、この金魚は一体どこで買ってきたのだろう?  
ズキン!  
思い出そうとすると、頭が痛くなってくる。
   
――ねえおかあさん  
――なーに?  
――あの金魚、どこで買ってきたの?
   
そう聞くと、少し母はつまった。  
しかしそれも一瞬のことで、すぐ笑顔を取り戻す。
   
――あれは小毬がお祭りでとってきたものでしょう?  
――おまつり?  
――そう、お祭り。あなたったら、一人でぐんぐん先へ行ったかと思ったら、金魚掬いの出店でじーっと金魚を見ていたのよ  
――そうだったっけ?  
――そうよ。それで、結局金魚掬いをやって、1匹だけ取れたのを持って帰ったの。それが、あの金魚
   
そうだ。  
思い出した。  
あの時『母』とはぐれて一人ウロウロとしていたら、偶然赤い魚たちに出会ったんだった。  
どうしてこんなことを忘れていたんだろう?  
疑問が解け、母の用意してくれた朝食に手をつけ始める。  
食べ終わる頃には、疑問に思ったことすら忘れていた。
   
このとき私は、母の言葉を疑いもしなかった。

  

   
――後で聞いたんだけどね
   
回想から再び現実へ。  
目の前の男の人に私は話しかける。
   
――おにいちゃんが亡くなった次の日、朝みたら金魚が1匹死んじゃってたんだって  
――そっか、それで・・・  
――うん。それに気づいたお母さんが、私に気づかれないうちにお墓を作って埋めてくれたんだって  
――・・・
   
沈黙が流れる。  
夜風に吹かれ、熱はとっくに冷めていた。
   
――それでね、私が中学校に上がる前に、もう1匹の金魚さんも病気で死んじゃったんだって  
――もうそのころには金魚ばちじゃ飼えないほど大きくなっててね  
――こーんなおっきな水槽で飼ってたんだよ
   
そういって両腕をいっぱいに広げる。  
空に腕で描いた空間に、星空が煌いていた。
   
――でも、そのことも、忘れてたんだ、私
   
ポツリとそう漏らす。  
再び静寂が辺りを支配する。  
聴こえていたはずの喧騒も、すでに止んでいた。
   
――ごめん
   
どのくらいの間そうしていただろうか、突然理樹君がそう呟いた。  
私はなぜ彼が謝るのか、まるで見当がつかなかった。
   
――どうしたの、急に?
   
そう尋ねる。  
理樹君は一つ一つ言葉を選ぶように続ける。  
   
――忘れていたほうがいい事だって、あるんだ  
――小毬さんのお兄さんがそう望んだように  
――僕は君の傷口を徒に切り開いてしまっただけなのかもしれない  
――・・・僕のエゴだったのかもしれない
   
懺悔するように吐き出していく。  
そんな彼をぎゅっと抱きしめて、私は囁く。
   
――謝ることなんて、ないよ  
――理樹君は、大切なことを思い出させてくれたんだよ  
――覚えてる?湖でデートしたときのこと  
――私、いったよね  
――『なくしものは寂しいよ』  
――『だから、なくしものは探すんだ』って
   
彼は震えていた。  
涙は流れていなかったけど。  
震えていた。
   
――なくしものが見つかったあの日  
――私、目隠しして見ないようにしてたよね  
――逃げようとしてたよね  
――そんな私の目隠しを優しくはずしてくれたのが、理樹君、あなた
   
理樹君の顔が、こっちを向く。  
その目が私を捉える。  
私は目をそらさず、じっとその目を見つめる。  
交錯する視線。  
彼の鼻先に人差し指をつきつけ、私は続ける。
   
――おにいちゃんの記憶、おにいちゃんの言葉、おにいちゃんの想い  
――全部、全部、理樹君が見つけてくれたんだよ?  
――逃げ続けた私に、教えてくれたよね  
――あのときの言葉、私全部覚えてるよ
   
一字一句忘れたりなんかしない。  
おにいちゃんの心、理樹君の心。  
おにいちゃんの想い、理樹君の想い。  
絶対に、忘れたりなんかしない。
   
――『にわとりやひよこは、悲しいから忘れるんだ』  
――『もう戻れないから、それが悲しいから忘れるんだ』  
――『でも、それはいつまでも繰り返していく』  
――『・・・それじゃ、いけないんだ』  
――『絶対に、それじゃいけない』  
――『いつかそれを受け止めなきゃいけないんだ』  
――『・・・だから、にわとりは、最後に・・・』  
――『自分がたまごだったことを思い出すんだよ』  
――『拓也さんは、いつか小毬さんがにわとりになったとき・・・』  
――『悲しいことを受け止められるように、って残したんだよ・・・』  
――『それを描いた時から、拓也さんはきっとそうなるようにって思ってたんだよ・・・』  
――そう、いってくれたよね
   
だから、  
だから理樹君は、  
   
――理樹君は、私の恩人さん、なんだよ
   
にこっと微笑む。  
その笑顔が伝わったのか、彼もにこっと微笑む。  
二人、申し合わせたように立ち上がる。
   
――行こうか  
――どこへ?
   
わかってはいたけど、なんとなく聞いてみてしまう。  
彼はくすっと笑って
   
――小毬さんが、行きたいところへ
   
もう一度、私の手をきゅっと握り締める。  
その手を握り返し、歩き始める。  
二人で。

  

   
バシャッ!
   
――あ、あれ?  
――あはは、理樹君、へたっぴ〜  
――おかしいなぁ、こんなはずじゃあ・・・
   
今私たちは、先ほどの金魚掬いのお店へ来ていた。  
お金を払って網を受け取ると、さっそく理樹君が掬いにかかり、見事に失敗していた。  
さあて、今度は、私が教える番だ。
   
――いい?よ〜く見てて  
――それっ!
   
パシャッ!
   
水面にのんきに顔を出していた1匹に狙いを定め、そっと慎重に網で掬い上げる。  
容器の中には、ぴちゃぴちゃはねてる金魚さん。  
隣を見ると、理樹君が驚いた表情を浮かべていた。
   
――すごいよ小毬さん!  
――えへへ、理樹君も、慣れればできるようになるよ  
――そうかなぁ  
――そうだよ。はい、これ使っていいよ  
――あ、ありがとう
 ;  
まだ破けていない私の網を彼に手渡す。  
それを受け取った理樹君の表情は、とても真剣だった。  
こんな遊びに真剣になる彼が、なんだかおかしくなってしまった。
   
――それっ!
   
パシャッ!
   
と、理樹君が掛け声を上げて網を走らせる。  
その網は、見事に魚をとらえていた。  
理樹君は逃がさないように即座にお魚を容器に移す。
   
――やった!  
――理樹君すごい〜。私みたいな失敗は、やっぱりしないねぇ  
――え?  
――う、ううん、なんでもないなんでもない
   
捕らえた魚をそのまま逃がすなんて大ポカはさすがに再現されなかったけど  
でも、とても楽しかった。
    
あの後すぐ網は破けてしまい、私たちの金魚掬いはそこで終了した。  
手提げのビニールに入れてもらった金魚たちを眺める。
   
――ほわぁ・・・やっぱりかわいい・・・  
   
そんな私をみてくすっと笑いをもらす理樹君。  
彼の左手は、もちろん私の手の中に。
   
――どうするの、それ?  
――小さいとき使ってた金魚ばちが倉庫にあったから、それ使うよ〜  
――そっか  
――うん
   
深くは言わない。  
でも、通じ合えていると思う。  
今度は二人で、この子たちを見守っていこう――

  

 
私は今、お墓の前に来ている。  
目の前には、  
『神北家之墓』  
と書かれた墓石、そこに小さく刻まれた『神北拓也』の文字。  
墓石の前で跪き、目を瞑って手を合わせる。

  

 
おにいちゃんへ  
ひさしぶりだね、おにいちゃん。  
元気にしていますか、っていうのはちょっとおかしいかな?  
私は、とっても元気です。  
あのね、今日はとっても素敵なお知らせがあるの。  
えへへ、なんだと思う?  
実はね・・・私、お嫁さんに行くことになったんだ!  
いい人、見つかったんだよ。  
とっても、素敵な人。  
今からここに来るから、ぜひ会ってあげてね。  
あ、でも、意地悪したりしたらだめだよ?  
くすくす。  
おにいちゃんも、天国で素敵なお嫁さん、みつかるといいね。  
それとももう、見つかっちゃったのかな〜?  
あ、理樹君がきた、ほらおにいちゃん、この人がそうだよ

  

 
ザッ  
足音を立てて理樹君がやってくる。  
彼は何故だか、狐につままれたような表情を浮かべていた  
   
――さっきの人、親戚の誰かかな?
   
開口一番、そう口にする。  
なんのことだか、私にはわからない。
   
――人?ここには私しかいなかったよ?
   
そういうと少し不思議な表情を浮かべ、  
あっと  
何かに気づいたような顔になる。
   
――そっか  
――ふぇ?何、どうしたの?  
――ううん、何でもない
   
彼は一つ首を振ると、何かを呟いた。
   
――大事にしますよ、お義兄さん
   
その声は、私には届かず、  
代わりに、懐かしい騒がしさが耳に飛び込んでくる。
   
――おーい、なにやってんだ、式におくれるぞー
   
恭介さんの声だ。
   
――ちくしょう、理樹、俺の筋肉じゃダメなのか・・・
   
これは真人君。
   
――理樹、神北、本当におめでとう
   
謙吾君の謝辞。
   
――こまりちゃん泣かせたら、めっだからな!
   
鈴ちゃんの、激励?かな?
   
――わふー、ご結婚おめでとうございますー。これ、お爺様が持たせてくださったおはぐろですー
   
クーちゃんの手土産。でもおはぐろって・・・。
   
――直枝さん、神北さん、お二人、とてもお似合いですよ
   
美魚ちゃんのお褒めのお言葉。
   
――いいなー私も結婚したーい!その辺にいい男落ちてないかなー
   
はるちゃんは相変わらずのテンションだね。
   
――今夜はお楽しみだな、少年  
――ななな何を言ってるのさ!それにもう少年って年でもないし!  
――照れるな照れるな。何、少年は私にとっては永遠に少年なのだよ  
――意味がわからないよ・・・  
――余裕があったら、感想を聞かせてくれ。24時間待機しているぞ  
――絶対、お断りだよっ!
   
いつものように理樹君をからかうゆいちゃんに、真っ赤な顔の理樹君。
   
みんな、みんな、いつまでも一緒に、  
笑いあって、泣きあって、  
これからも、生きていく。  
悲しいこと、つらいこと、これからたくさんあるかもしれないけど、  
もっともっと、素敵なもの、探しに行こう。  
理樹君と、一緒に。
   
墓石を見る。  
様々な思いがよぎる。  
最愛の兄に、なんて声をかけようか?  
『今までありがとう』  
『ずっと見守っててください』  
ううん、違うね。  
きっと、こうだ。
   
――おにいちゃん、見ていますか?  
――私はいま、とっても幸せです

  

<了>

  


面白かったらぜひっ

あとがき
 
小毬END後、そのまま結婚コースを描いた作品です。
ゲーム内で少しだけ触れていた『金魚』のエピソードを作者なりに広げてみたのですが、いかがでしたでしょうか、感想など聞かせていただけるとうれしいです。
 
それとお気づきの方も多いかとは思いますが、ゲーム内の台詞をそのまま引用している箇所がいくつかあります。
これを読んで原作の雰囲気を思い出していただければ、さらに『うおおおおこまりんルートもう一回やりたくなってきたあああ』なんて思っていただければ、作者冥利に尽きる思いです。
(リトバスの購入を決意したきっかけが、小毬がワッフル食べてるCG見て惚れたなんていうのは、俺だけじゃないはず・・・!)
 
最後に、読んでくださった皆様方、ありがとうございました
 

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